毎年、鹿児島県内の各地で活躍する人材を輩出する「本気の地域づくりプロデューサー養成講座」。
この講座の受講生たちに、定期的にインタビューをして、受講生が年々変化していく様子を応援しようという本企画。
今回のゲストは、鹿児島県庁の職員として働く池田康朗さんです。
中編では、佐賀県庁に出向した際に経験したことや感じたことを中心にお話を伺います。
<聞き手=森満 誠也(KagoshimaBase編集者)>
佐賀県庁への出向
さが創生推進課に配属された
鹿児島県庁に入って最初の異動が佐賀県庁への出向だったわけですが、もともと希望していたんですか?
当時は鹿児島県庁に入ったばかりだったので、正直に言うと、希望はしてなかったですね。笑
将来的に、鹿児島県外に出てみたいなとは思ってましたが、まさか一発目の異動で出向するとは思ってなかったです。
佐賀県庁ではどんな仕事を?
さが創生推進課という部署で、地方創生の分野についての仕事をしてました。
地方創生の部署で仕事をしたことがないので、働き方が具体的にイメージできないんですが、そもそも職員は何人ぐらいの部署なんですか?
さが創生推進課は係が複数あって、僕が在籍してた係は職員が係長含め6名、非常勤専門職員が3名、計9名の部署でしたね。
僕の配属先は、県内の地域に入り込んで課題を解決する、いわゆる実働部隊だったんですよ。
係員で8人…係としては少なくない印象ですが、県内全域を動き回るんですよね?
そうです。
この人数で成り立ってたのは、佐賀県の地理が要因だと思います。
というのも、佐賀県ってかなりコンパクトな立地で。
高速道路を使えば、佐賀県庁から約1時間半で県内の一番遠い町まで行ける。
30分もあれば、10市町ぐらいは行くことができるコンパクトさなんです。
とにかく走り回った2年間だった
なるほど!
二つの半島に分かれてる鹿児島県では、ちょっと考えられないですね。。
地方創生の分野って内容が幅広いイメージですけど、具体的な仕事内容を聞いてもいいですか?
仕事は幅広かったですね。
地方創生に関する補助金の業務をしたり、地域住民の集まりで佐賀県に関する話をしたり。
地域でワークショップやるって話を聞いたらファシリテーター的なことをやったり、SAGAローカリストアカデミーや企画甲子園みたいな人材育成の新規事業をやったり。
とにかく走り回った2年間でした。
攻めとチャレンジの風土
佐賀県庁の雰囲気や職場の空気感って、どんな感じなんですか?
鹿児島の場合だと、「新しいことにどんどんチャレンジしようぜ!」っていうより、「失敗だけはするなよ!」っていう空気感の強さを勝手に感じていて。
それで言うと、佐賀県庁はチャレンジしようぜ側の空気感でした。
面白いこと、新しいことをどんどんやろうっていう空気感がありましたし、意思決定のスピード感も半端なかった。
知事がアイデアマンだという部分も大きいですが、県庁全体の雰囲気としても、攻める比重の大きさを感じてましたね。
組織風土はいきなり作れるものじゃないから、攻めの風土が醸成されてるのは純粋にうらやましいです。
既に佐賀で働きたくなりました。。笑
僕の所属していたさが創生推進課も、地域にどんどん取材に行って事業化するみたいな部署でしたけど、他の部署ではクリエイターと一緒に施策をブラッシュアップする部署があったりして。
行政的な仕事だけでなく、攻めを重視する部署があるんですよ。
すごい。。
紙文化からの脱却
それに加えて、電子化がめちゃくちゃ進んでいて。
鹿児島県の場合、今も紙でやりとりをする文化が色濃く残っているんですけど、鹿児島市はどうですか?
鹿児島市も決裁は紙が多いし、レクチャーとかヒアリング等の説明資料は、ほぼ全て紙で行っていますね。
ですよね。
佐賀県だと結構前から電子決裁システムが確立されてて。
決裁だけじゃなく、職員同士が使えるチャットシステムがあったり、資料は全部共有フォルダに電子データ化されて課長や部長とも共有してたり、その共有フォルダに家のパソコンからもアクセス出来たり。
副知事へのレクチャー等でも電子データで説明できる環境があるので、「説明をするために紙資料を何度も修正したり、、」みたいなことがなくて。
もちろん場合によっては紙も使いますけど。
それはめちゃくちゃ良い!
行政職員が上司へレクチャーするための紙資料に、どれだけの時間を使っているか。。泣
チャットと電子データの共有だけで済むようになれば、かなり業務効率上がりますよね。
チームで働くということ
そうですよね。
働き方をもう少し掘り下げると、懸案事項があった時の対応も、鹿児島とはかなり違うなぁと思って。
佐賀県庁で僕が所属してた部署の場合は、何か懸案事項があった時、ホワイトボードの前に係員を集めるんです。
係長が係員を集めてミーティングする所までなら、うちの職場でもありますよ。
そこから、皆でチョコとかを食べながら、どうすれば懸案事項が良い方向に向かうか、ディベートが始まるんです。
職員が意見をガンガン出し合いながら、それをホワイトボードにメモしていって。
それは鹿児島では考えられないですね。
職員が集まったら、基本的に沈黙多めですもんね。笑
ですよね。笑
それがすごく良くて。
『チームでやってる感』のある職場でした。
電子化といい、レクチャー方法といい、働く環境の違いを感じますし、鹿児島と佐賀の間でかなり差が開いてるなぁと感じるエピソードです。
SAGAローカリストアカデミーについて
疑問を感じた補助金の仕事
池田さんが佐賀県庁で担当してた仕事について、もう少し具体的に話を聞きたくて。
先ほど、SAGAローカリストアカデミーや企画甲子園という言葉が出てきました。
これらについてどんな事業だったか、経緯も踏まえて教えていただけますか?
まず、SAGAローカリストアカデミーについてお話しますね。
僕が所属していたさが創生推進課は、今の佐賀県知事の就任と同時に創設された、地方創生専業の部署だったんです。
『地域づくりの分野を佐賀県が率先して盛り上げよう!』という目的で。
地方創生の分野で、県が率先して引っ張るっていう構図が、僕のイメージにはなかったです。
鹿児島県の場合だと、地方創生の分野は地域振興局が担ってるんですよ。
ただ、佐賀県の場合は地域振興局ではなく、本庁に専属の部署を創設したんですよね。
県全体で本腰を入れて盛り上げていこうとする決意を感じますね。
配属された当初は、補助金事業や地域づくり人材育成事業を担当してました。
ただ、仕事として補助金業務を担当していると、深い意図なく補助金に頼る団体は、補助金ありきの事業になったり、補助金を使って大きなモノをつくることが目的になってしまってるなぁと感じるような相談を受けたこともあって。
手段が目的に変わってしまうみたいな話ですよね。
行政に求められていること
そんな中、地域の頑張ってる人たちと話すうちに、彼らが行政に求めてるものは補助金(だけ)ではないということが、なんとなく分かってきたんです。
地域の人たちは、行政に何を求めてましたか?
PRやご縁つなぎ、部署の垣根を超えた連携でしたね。
ご縁つなぎ?
地域の中でしっかり考えて行動してる人や、佐賀のために頑張ろうとしてる人たちは、皆、自分でアクションできる人ばかりだったんです。
そういう人たちは、SNSもバリバリ使って発信してるし、面白いことを自分で見つけて動くことができる。
人をつなぐ場の設計
たしかに、そういう意欲的な人たちは、補助金に頼らなくてもやれることを考えて、出来ることからどんどん行動していきますもんね。
そうなんです。
もはや行政が伴走する必要すらなくて。
面白い人と面白い人をつなぐ場さえ設計してしまえば、あとは自発的に新しいことを生み出して、行動してくれる。
僕ら行政職員は、佐賀県内の様々な情報を持っているからこそ、人をつなぐっていう場の設計に注力した方が、佐賀のためになるんじゃないかって。
なるほど!
面白い!!
個人的な話になっちゃうんですけど、正直、「人をつなぐ」って言葉があまり好きじゃなくて。
「俺はこんな人もこんな人も知ってるんだぞ」的なニュアンスが嫌だったり、つながることを押し付けられて「余計なお世話だよ」と思うことがあったから。
なるほど。
ただ、池田さんの「つなぐところを設計すれば、自発的に新しいものを生み出してくれる」っていう言葉を聞いた時に、すごく面白いなぁと感じました。
その考え方は僕の中になかったから。
この人が面白い人であることを担保してあげて、人としての面白さに佐賀県が責任を取るっていう話ですもんね。
そうですね。笑
佐賀の面白い人同士が出会う場をつくろうとして、人材交流の視点で生まれた事業がSAGAローカリストアカデミーなんです。
補助金を配る事業より、数値的な成果は見えにくいかもしれないけど、佐賀の未来の基盤をつくる事業になりそう。
僕が佐賀県に出向して1年目に、県の新規事業として予算要求して、2年目に第1回目のSAGAローカリストアカデミーを実施しました。
僕が鹿児島に帰ってきた後も毎年継続していて、佐賀の面白い人同士が出会えるような場になっています。
佐賀さいこう!企画甲子園について
佐賀を好きになってもらうために
企画甲子園は、どのようにして生まれた事業なんですか?
県内の高校生から、佐賀県の魅力を伝える企画を競い合う「高校生による企画コンペ」の提案があって。
佐賀県としても、「事業としてやってみよう!」ということになり、始まりましたね。
企画甲子園って高校生が主役の事業ですよね?
高校生にこの事業の魅力を届けるのって結構難しそうですが、どうやってPRしたんですか?
企画甲子園をやると決まってからは、僕らの課の職員が、佐賀県内すべての高校にポスターとチラシを持ってPRに走り回りました。
高校の先生方にもご協力をいただいて、参加者を募ったんです。
先生たちと連携しながらPRしたわけですね。
実際にやってみて、実現した提案もありました?
あります!
第2-3回(2018-19)の企画甲子園に出場した致遠館高校(チームルビア)が、さがんルビー(国産グレープフルーツ)のPRや商品化を提案し、実現させて、販売を行ったんですよ!
企画甲子園の運営について
すごい!
自分たちで考えたものが商品化されて街中で売られるって、高校生にとってはめちゃくちゃ嬉しいかもなぁ。
そもそも企画甲子園自体は、どのような流れで運営されてたんですか?
私が担当していた頃の話ですが、まず一次選考で書類審査があります。
応募チームから提出された予選課題シートを審査して、約20チームが通過するんです。
次に二次選考。
考えてきた企画について、一次選考を勝ち抜いた20チームにプレゼンをしてもらいます。
二次選考を勝ち抜くのは8チームです。
なるほど。
高校生とクリエイターが企画を磨き上げる場
そこから、二次選考を勝ち抜いた8チームを合宿に連れて行くんです。
合宿!?
そのまま最終プレゼンじゃないんですね!
もちろん最終プレゼンもするんですけど、その前に企画をブラッシュアップする目的で1泊2日の合宿をするんです。
その合宿には、佐賀にゆかりのあるのクリエイターに講師として参加してもらって。
高校生がクリエイターと一緒に企画を磨いていくんです。
それはめちゃくちゃ面白い。。
普段、高校生活を送る上で、第一線のクリエイターと触れ合う機会なんて、なかなかないですもんね。
高校生たちは、そこで色々な価値観に触れて、企画がブラッシュアップされるわけですね。
そうなんですよ。
その合宿を経て、数週間後に最終プレゼンをするんです。
審査員は、全国で活躍するクリエイター(合宿とは別の方)と佐賀県知事。
最優秀チームは、青少年交流プログラム、つまり海外研修へ招待されます。
特典などこれらの話も私が在籍していた頃の話ですけども。
特典も振り切っててすごい。笑
見知らぬ土地での立ち振る舞い
佐賀とのつながりは全くなかった
他にも集落訪問っていう、佐賀県内の市町に県職員と市町職員が3ヶ月ぐらい取材に行って、地域の困りごとや課題を知事や副知事の前でプレゼンする機会があったり。
とにかく、フットワーク軽く、柔軟に、チャレンジする仕事をさせていただきましたね。
今までの話を伺うと、とても2年間でやりきったとは思えない内容ですが、もともと佐賀県に繋がりがあったわけじゃないんですよね?
全くなかったです。笑
現場主義
インタビューをしながらも感じているんですけど、池田さんは人の懐に入るのがうまいなぁと感じていて。
全く知らない場所だった佐賀で、どうやって人間関係を構築していったのか興味があります。
いやー、どうですかね。。笑
仕事内容もよくわからず、土地勘もなかったので、「とにかく現場に行こう!」って思ってました。
なるほど。
最初は、仕事で絡みのある人を訪ねて行くところからはじめて。
地域でのイベントやワークショップにも積極的に参加したり、土日はSNSでイベントの情報を見つけて行ってみたり。
現場に行きまくったわけですね。
佐賀生活のすべてが楽しかった
仲良くなった人に、「だれか面白い人を紹介してください!」ってお願いして、休日に紹介してもらったり。
友人のイベントに行ったら、そこに居合わせた面白そうな人を友人に紹介してもらったり。
そうやって、少しずつ、関係性を作っていった感じですね。
さが創生推進課っていう仕事柄、オンとオフがシームレスな職場環境だったんだろうなぁという印象です。
それって、職員の性格によっては、苦痛に感じる人もいそうですよね?
そうだと思います。
僕は、独身だったっていうのも大きかったとは思いますが、とにかく全てが楽しかったんですよね。
確かに身体は疲れてる時もあるんですけど、頑張ってる人と会うことで元気をもらえますし。
だから、土日もフルで出かけてましたね。笑
まとめー中編ー
取材前、Facebookで池田さんのタイムラインを追っていったんです。
そこには、池田さんの佐賀愛が溢れていて。
池田さんにとって、佐賀での2年間が充実していたことはもちろん、池田さん自身が佐賀の人たちから愛されていたんだろうなと、容易に想像できました。
また、インタビューの中で出てきた電子化の話や、チャレンジしやすい職場の空気感など、行政組織が佐賀県から学ぶべき部分がたくさんあります。
働き方というテーマで、もう一度じっくり佐賀県庁の話を伺いたいなぁと思わせてくれるインタビューでした。
ということで、中編は、佐賀県で経験したことや感じたことを中心にお話を伺いました!
後編では、鹿児島に帰ってきて悩んでいた話や、鹿児島で思い描く未来について、お話を伺いますので、お楽しみに!
では、また次回お会いしましょう!
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