【中編】主催者挨拶でラップをする本当の理由【上原順郎|鹿児島県庁】

公務員図鑑

最前線で働く公務員が、日々何を思い、どう働いているのかを深堀る『公務員図鑑』

今回のゲストは、鹿児島県庁くらし共生協働課の課長、上原順郎さんです。

この記事は7分で読めます^^

中編では、仕事で泣いた話や、主催者挨拶に込めた思いについてお話を伺います。

上原さんの姿をとおして、普段日の目を見ることが少ないけど、必死に働いてる公務員の姿を少しでも身近に感じてもらえると嬉しいです。

<聞き手=森満 誠也(KagoshimaBase編集者)>

仕事で泣いた話

壮絶だった肥薩オレンジ鉄道の担当

森満
森満

上原さんの中で、今まで一番思い出深い職場は何ですか?

上原さん
上原さん

どこも思い出深いけど、やっぱり肥薩おれんじ鉄道の担当の仕事が思い出深いなぁ。

森満
森満

具体的にどんな仕事をしていたのか、内容を伺ってもいいですか?

上原さん
上原さん

2004年に九州新幹線が(新八代~鹿児島中央間で)一部開業したわけだけど、国のスキームで、新幹線開業でJRから経営分離される並行在来線は、地元が責任を持って対応することになってた。

つまり、並行在来線(後のおれんじ鉄道)の開業無くして新幹線開業は無かったってこと。

当時、この肥薩おれんじ鉄道の担当者の一人が、私でした。 

森満
森満

なるほど。

上原さん
上原さん

特に阿久根駅での出来事が印象に残っています。

阿久根駅は、当時、特急電車の停車駅だったんだけど、新幹線の停車駅とはなってなくて、新幹線開業で並行在来線の停車駅だけになってしまう。

つまり、鹿児島に新幹線を持ってきたことで、阿久根駅は特急列車ではなく各駅停車の駅になったんだよね。

森満
森満

利便性だけを考えると、不便になりますよね。

上原さん
上原さん

言ってみれば、阿久根市は鹿児島県の将来のために、その選択をしてくれたわけだよね。

そんな中、新幹線が全線開通し、もともとJR九州鹿児島本線の一部だった阿久根駅を含む路線が、肥薩おれんじ鉄道に移管された。

森満
森満

なるほど。

上原さん
上原さん

肥薩おれんじ鉄道は、鹿児島県の川内駅と熊本県の八代駅を結ぶ路線でね。

新幹線の開通セレモニーと全く同じタイミングで、肥薩おれんじ鉄道も開通セレモニーをやったんだよ。

僕は肥薩おれんじ鉄道の担当だったから、川内駅から八代駅まで列車に乗ったんだけど、マスコミも、市民や町民も、みんな新幹線のセレモニーの方に行っちゃってね。

開通セレモニーなのに、各駅停車の駅に列車が着いても、ほとんど人がいない。

森満
森満

なんとなくイメージできます。

上原さん
上原さん

複雑な心境のまま、乗ってる列車が阿久根駅にとまるわけ。

そしたらさ、阿久根市長から地元のじーちゃん、ばーちゃん、子どもたちまで、大々的に出迎えてくれたのよ。

皆が正装し、お祭りの恰好をし、旗をワーワー振ってくれてさ。

森満
森満

話聞いてるだけでも、胸が詰まります。。

上原さん
上原さん

それを見た時に、車両の中で号泣してしまって。

この人たちは、言ってしまえば失うものが大きかったにもかかわらず、旗を振り、歓迎ムードで出迎えてくれた。

喜んでくれた。

しみじみ感じるものがあったよ。

森満
森満

言葉がないです。

鹿児島のために泣くまで働ける面白さ

上原さん
上原さん

何が言いたかったかっていうと、なんで自分は阿久根駅で泣いたんだろうって考えたんだよ。

森満
森満

答えは出ましたか?

上原さん
上原さん

嬉しくても泣いてたし、悔しくても泣いてたし、悲しくても泣いてた。

肥薩おれんじ鉄道の担当として、ほぼ毎日日付が変わって帰るような、泣きそうな思いで仕事を続けてきたから、より一層複雑な感情が入り混じってたんだと思う。

森満
森満

今、そこまでやるべきことを仕事でやり切れてない消化不良な僕からすると、少しうらやましさがあります。

上原さん
上原さん

新幹線開業といったダイナミックな仕事が出来るのも、行政職員として働く面白さなんだよね。

ましてやそれが大好きな鹿児島のために、泣くほどの仕事ができるって、これほどのやりがいは、他にないよ。

華やかに見えるけど、ずっと苦しかった

森満
森満

たしかに。

一方で、それだけ大変な仕事だったら、家族との時間がなかったんじゃないですか?

上原さん
上原さん

ほとんど子供とは会えないのよね。

ほぼ毎日、家に帰り着く頃には日付が変わってたし、朝7時半には家を出る生活。

新幹線と肥薩おれんじ鉄道の仕事は、国や熊本県、沿線自治体、JR等との交渉がああり、新聞にも連日取りあげられて注目されてる。

ずっと苦しかった。

森満
森満

いわゆる定時に帰る公務員像とは、かけ離れた働き方ですよね。

上原さん
上原さん

当時、息子が5歳か6歳だった。

ある日、くたくたになりながら家に帰ると、机の上に息子からの手紙が置いてあってさ。

新聞のチラシの裏紙に「おとうさんおしごとがんばってね」って。

森満
森満

。。。

上原さん
上原さん

それを見て号泣よね。笑

森満
森満

想像するだけで泣けます。

上原さん
上原さん

そんな思い出があるから、2年前におれんじ鉄道と家族を取り上げた映画「かぞくいろ」が上映された時は嬉しかったなぁ。

舞台は阿久根だったし。

映画「かぞくいろ」のポスター

主催者あいさつで嵐のラップをする本当の理由

いかに世代間のギャップを埋めるか

森満
森満

話は変わりますけど、上原さんといえば、ラップで主催者あいさつをする課長として有名ですが、なぜラップをするようになったか教えていただけますか?

上原さん
上原さん

実はね、ふざけてるように見えて、僕なりにちゃんと考えてるのよ。笑

例えば嵐ってグループは、国民的アイドルグループでしょ?

10代から高齢者まで、みんなに愛される稀有な存在。

森満
森満

30代の僕も大好きです。

上原さん
上原さん

共生協働の仕事をしてると、多様な世代の人が一堂に会する場面が多いのよ。

そこで、どう世代間のジェネレーションギャップを埋めていくかを考えた時に、嵐っていう共通言語があると、年齢関係なく歩み寄れるんじゃないかなぁと思って。

前提として、僕自身が嵐大好きっていうのも、もちろんあるけどね。笑

森満
森満

そんな深い意味があったんですね!

好きでやってるだけなのかと思ってました。。笑

上原さん
上原さん

行政の職員は、会議の冒頭であいさつをするでしょ。

内容はすごく真っ当なことを言ってて、良いことも言ってる。

ただ、聞かされる側の目線に立つと、行政職員がいくら良いことを言っても、内容が入ってこないことが多いんだよね。

森満
森満

たしかに。

上原さん
上原さん

堅いあいさつの代わりに嵐のラップをやることで、少なくとも場の空気は和むじゃない?

そのあと、例えば講座があるとすれば、受講生が講師の話を聞きやすい雰囲気ができるんじゃないかなって。

森満
森満

講座全体をひとつで考えた時に、冒頭のラップが《ツカミ》みたいな役割だってことですね。

上原さん
上原さん

本当に伝えたいことも、ラップの前後に入れるわけよ。

伝えたい部分』と『バカやってるなって思われる部分』をかけ算することで、普通に挨拶したら聞き流されてしまうところを、スッと受け取ってもらえたらなって思いながら、ラップしてる。

森満
森満

そんなに深い意味があったとは。。

環境を整えるということ

上原さん
上原さん

聞いてもらえる雰囲気や、受け取ってもらう空気感を作ること。

些細なことかもしれないけど、ここを意識してる。

場の環境を整えることも課長の仕事の大きな役割の一つだと思ってるからね。

森満
森満

(すべての管理職に聞いてほしい…)

上原さん
上原さん

フランクな雰囲気で臨んでほしい場なのに、冒頭でまじめな挨拶されても、話入ってこないでしょ?

僕がラップであいさつすることで、結果的に場が和んで、リラックスして参加していい場なんだって参加者に思ってもらえたら、大成功だと思ってやってる。

みんながゲラゲラ笑ってくれるのも純粋にうれしいしね。

森満
森満

参加者側目線で考えると、偉い人がふざけてくれることで、空気が一気に和みますもん。

上原さん
上原さん

初めて言うかもだけど、実はめっちゃ考えて選曲してるんだよね。

歌詞が覚えられなくてさ、受験生みたいにノートに一生懸命書いて覚えてる。笑

森満
森満

そんな努力があったんですね…笑

課長あいさつ直前にラップを暗記する上原さん

今から公務員を目指す人へ

公務員だからこそ、やれることがある

森満
森満

肥薩おれんじ鉄道のお話で、鹿児島のためにダイナミックな仕事ができるのが行政職員だというお話がありました。

公務員として働くことの意義は何だと思いますか?

上原さん
上原さん

民間のいち企業の名刺では入っていけない所を、公務員という肩書を背負うことで入っていける部分は、すごくメリットだなと感じている。

だからこそ、やれること、やるべきことがあると思う。

行政だけで仕事をする時代はとっくに終わってる

森満
森満

たしかに僕自身も名刺の力はめちゃくちゃ感じてます。

また、全国的に見ると、官民連携の大きな流れがあるが、そこについてはどう考えてます?

上原さん
上原さん

行政だけでやる時代はとっくに終わってるよね。

人口”減少”局面に入ったこれからの時代は、官民が連携して、お互いの得意なことを尊重し、ともに歩んでいく必要がある。

行政も一緒に汗をかきながら民間をサポートしたり、活かしていく視点も大事だと思うよ。

森満
森満

人口”増加”局面で長く戦ってきた上原さん世代が、そう考えていることに深みを感じます。

一方で、なかなか上原さんみたいに考えられる人が少ないことも肌感としてあるんですよね。

公務員は民間と付き合うな!みたいな風潮も、まだ残ってるし。

上原さん
上原さん

今、時代の転換点で、過渡期なんだと思う。

働き方も行政の仕事も、今からどんどん変わっていくのは間違いないから、自信を持って!

希望を持つ若い人と一緒に働きたい

森満
森満

ありがたい…泣

ちなみに、どんな公務員と一緒に働いていきたいですか?

上原さん
上原さん

やってやるぞ』っていう思いを持った人と一緒に働きたいなぁ。

そういう若い人に、公務員になってほしい。

希望を持ってやる気満々で働く人ほど、苦しいこともたくさんあると思けど、思いを持って動いていれば、知り合った人や仲間がどんどんつながっていく。

そういう思いの連鎖が、必ず鹿児島全体のためになるからね。

まとめー中編ー

  場の環境を整えることも課長の仕事の大きな役割の一つ

この言葉をさらっと言えるところに、上原さんの魅力が詰まってると思います。

熱い気持ちを根底に持ちながら、何の実績もないKagoshimBaseのインタビューを快く受け、まじめに応えてくれる上原課長は、私にとってめちゃくちゃ貴重な存在で、心の支えです。

今回は、肥薩おれんじ鉄道の担当をしていたころの話、会議冒頭であいさつの代わりにラップをする話、一緒に働きたい公務員についての話をお届けしました。

次回の後編では、年長者と若者の関係性についての話や、家族愛についての話をお届けしますので、お楽しみに!

では、また次回!

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