こんにちは!
今回は鹿児島市主催のシティプロモーション事業『PLAYCITY!DAYS2023』をきっかけに、薬師温泉の4代目である福丸直宏さんへ、薬師温泉のリノベーションプロジェクトに込められた想いを伺う機会がありましたので、その内容をお伝えします。
若干30歳にして大規模なリノベーションプロジェクトを実行した裏にどんな想いがあったのか、家族との関係性や保育×銭湯の可能性など、ボリューム満点&大興奮の内容になってますので、ぜひ最後までご覧くださいませ!
<執筆=森満 誠也(KagoshimaBase編集者)>
福丸さんのプロフィール
平成5年生まれの30歳。
武岡幼稚園・武岡みらいえこども園で副園長として働く一方、薬師温泉の4代目としても奮闘する。
鹿児島市で高校までを過ごし、大学進学と同時に東京へ。
玉川大学教育学部で保育について学び、卒業後は保育士として鳥取県米子市で勤務した後、東京都世田谷区の新しい園で働き始める。
そこで保育とまち、人と人のつながりの大切さを知り、子どもの自主性を尊重する保育のあり方に感銘を受ける。
鹿児島で武岡認定こども園の開園を機に、鹿児島へUターン。
目指す保育の実現に奔走する一方、薬師温泉のリノベーションプロジェクトを立ち上げ、2023年4月にリニューアルオープンした。
まちと人をつなげるハブのような場となるよう薬師温泉の中心にBANDAI CAFEを設置し、コーヒー牛乳やアイスティの提供も行いながら、休日はイベントを行うなど、精力的に活動を続ける。
薬師温泉リノベーションプロジェクト
薬師温泉のこれまで
薬師温泉は大正8年(1919年)に薬師湯として開業しました。
昭和49年(1974年)に現在の建物で薬師温泉として営業を始め、源泉掛け流しの大衆浴場として50年以上運営しています。
この写真↑がリノベーション前の脱衣室です。
昔の門構えで、近所の人が来る銭湯という感じでした。
令和4年(2022年)に薬師温泉リノベーションプロジェクトが始動、令和5年4月にリニューアルオープンし、今に至ります。
保育と温泉は二足の草鞋じゃない
僕の自己紹介をさせてください。
平成5年(1993年)に生まれて、先日30歳になりました。
普段は保育士をしており日中は認定こども園で副園長として働きながら、夜は薬師温泉の4代目として番台に立ったりお風呂掃除をしたり、父(3代目)の手伝いをしたりしています。
保育士のイメージとして「子ども達と遊べて楽しそうだね!」って言っていただくことが多いんですけど、子どもの育ちを支える重要な仕事だと僕たちは思っていて。
その子のどこが今育っているのか、どこを頑張ってくれているのかみたいな部分を言語化&見える化して保護者や街の人へ伝えたり発信すること、つまり『まちと子ども、子どもと保護者をつなげる』コーディネーター的な仕事だと勝手に思っています。
なので..保育士はただ遊んでるだけじゃないんだよってことを知ってもらえたら嬉しいです。笑
よく『保育と温泉の二足の草鞋』って言われるんですけど、まちと人をつなげるハブのような仕事という意味では、公衆浴場と幼児教育っていうのはすごくマッチしているので、二足の草鞋じゃないよなっていうのが、僕の率直な感覚です。
東京で感じた理想の保育
少し話が遡りますが、鹿児島に帰ってくる前、僕は東京都世田谷区下北沢の新しい保育園で働いていたんですね。
その園があった場所は、地区開発が行われてるエリアのど真ん中で。
街自体がどんどん進化していく中で保育士として働きながら、いろんな刺激を受けたんです。
保育を街に広げたり、人と人が繋がって面白いことが起こったり、アーティストの方が保育園の中で子どもと一緒に作品を作ってくれたりもして。
今振り返ると、すごく充実した時間を過ごせていたなって思っていて。
『こんな保育がずっと出来たら楽しいなぁ、他の場所でも出来たら良いよなぁ』って思っていたところ、父から「新しい園舎をつくるから鹿児島に帰って来い。」と言われ、それがきっかけで鹿児島にUターンすることになるんです。
建て替えor大型補強
話がようやく薬師温泉の方に向かっていくんですけど。。笑
僕が鹿児島に帰ってきた時、薬師温泉の建物はかなり老朽化していました。
今すぐに倒壊する!ってほどではないものの、柱にひびが入っていることをお客さんからも指摘されるような状況で。
家族会議でも「遠くない将来、建て替えor大型補強をしないといけないよね」って話し合うような認識でした。
ただ、当時は社会情勢的に木材がどんどん高騰している状況があって、しかも建て替えっていう選択肢を取ると、建築基準法の関係で既存の建物よりも小さな建物にしなければいけないことが分かったんです。
そんな選択をしてしまうと、現状でさえ小さなビルがもっと小さくなってしまう上に、費用もかなり高額になる。
『建替だと返済していけない。』という結論に至って、私たちは『補強+リノベーション』という選択を取りました。
100年続いた薬師温泉を次の100年につなげる
では、どのようにリノベーションしていくかを検討していくことになるのですが、大前提として薬師温泉はずっと公衆浴場として運営してきたので、その形を変えることはしたくありませんでした。
ただ、鹿児島県だと公衆浴場は420円なので、この価格以上は取れないっていうのが正直に言うとネックでした。
その価格設定を維持しながら、どうやって建物の修繕費やリノベーション費用を返していくのか。
ただ建物を補強してきれいにするっていうだけではなく、新たな価値をプラスして、この建物自体の魅力を高めていかないといけないと判断したんです。
100年以上続いてきた薬師温泉を、次の100年に繋げていくために、今ここが踏ん張り時だと感じていて。
正直に言うと、最低限の補強だけして続けながら、本当に危なくなったら薬師温泉自体を潰すっていう選択肢もあったんです。
ただ、自分が生まれ育った薬師の街で、せっかく受け継がれてきた家業を僕の代で潰すっていうのは、うーん、、選択肢として僕の中では無くて。
どうやって続けていくか、伝承していくか、継承していくかを考えて、プロジェクトを進めていきました。
伝承と継承
伝承と継承について、少し僕の考えをお話をさせてください。
まずは伝承について。
僕は物心がついた時から母の膝の上で番台に座り、薬師温泉に来てくれるお客さん達に育ててもらったような感覚があるんです。
そんな幼少期を過ごしていたので、毎日温泉に通ってくれる方、いまだに僕が背中を擦ってあげるおじちゃんもいるんですけど、そういう方々の居場所をどう守っていくか。
また、自分の息子のような次世代に、この場所をどう残していけるのか。
人・コト・まちをどう繋いでいけるのか、それを考えていくことが伝承なのかなと思っています。
次に継承について。
継承って、一般的には『代が変わる』っていうことを指す言葉だと思うんですけど、実際、まだ薬師温泉は代替わり自体はしていない状態で。
経営は3代目の父が、運営方針だったり新しいことに関しては4代目の僕がしていて、この両輪で回しているような状況なんです。
父が守り続けてきてくれたもの大切にしながら、僕がこれからの時代に合わせてどうフレキシブルに守っていくか。
ここを考えること、引き継いでいくこと、守っていくことが継承だと感じています。
リノベプロジェクトの関わってくれた最強メンバー
薬師温泉のリノベーションプロジェクトに関わってくれたのが主にこの方々なんですけど、このメンバーが最強でして..笑
薬師温泉のデザインをしてくれたのがatelier SALADの栫井さんと徳永さん。
ロゴを考えてくれたPRISMIC DESIGNの二野さん。
バンダイコーヒーの提供を一緒に考えてくれたLUCK APARTMENTの福永さん。
植栽を担当してくれたWeru Landscapeの日高さん。
みなさんがポジティブに「いいねそれ!やろうやろう!鹿児島を盛り上げよう!」って色々と協力してくださったおかげで、ここの場所が出来上がりました。
しかもリノベーションが完成したら終わりっていうわけでもなく、実際に先日開催した『薬師温泉の朝』っていうイベントでは二野さんが色々と協力してくださって。
そうやって色々な人と繋がりながら、まちと繋がり合いながら、この薬師温泉という場をどうやって地域に根ざしていくのか、考え続けていきたいなぁと思っています。
繋がらなくても生きていける時代において
コロナ禍以降、社会や働き方がどんどんフレキシブルになって、人と繋がらなくても生きていけるような時代になってきたと感じています。
保育の仕事をする中でも、1人で子育てに悩んでいたり、頼りたくてもどこを頼れば良いのか分からない保護者の方の存在も実感していて。
そういう人たちの拠り所となれるような場所に、この薬師温泉がなれることを目指しています。
これからの時代における銭湯の役割
銭湯という場所って、生活に密接に関わっているよなぁと感じていて。
最近はカフェ等を指して『サードプレイス』って言われたりしますが、銭湯もそういう場になり得ると思っているんです。
というのも、銭湯って文字通り『裸になる場所』じゃないですか?
パジャマで行けるし、すっぴんで行ける。
生活に入り込んだ場所だからこそ、身近にふらっと立ち寄れる場所なんじゃないかなって。
薬師湯の頃は各家庭に浴室が普及してない時代で、皆が風呂桶を持ってたくさんある銭湯に通うような時代だったんですけど、これからはお風呂に入る手段としての銭湯というより、希薄化したコミュニティをこの銭湯で整えることができたらなって思っています。
温泉に入らない日でもふらっと立ち寄ってバンダイコーヒーを飲んでいただけるように、建物の中心に番台を設置したり、ガラス張りにしたんです。
何気ない日常の中で人が繋がり合う。
そこから面白いことが自然発生的に起こるような、そういう柔軟性のある場所にしていきたい。
そういう小さなイベントや風景を積み重ねることで、僕らの次の世代に鹿児島の銭湯やサウナの文化が受け継がれていくんじゃないかなって思っています。
普通の日常にちょっとしたスパイスが入るような、笑顔がいっぱい溢れ出るような場所にこれから少しずつしていきたいです。
温泉のことや家族のことを質問してみた
ありましたね。笑
「銭湯にコーヒーってどういうこと!?公衆浴場だぞ!」って。笑
ただ、僕としては薬師温泉を継ぐのなら、自分の納得のいく形で継ぎたいという想いがあって。
『僕には現時点で、銀行から融資を受ける信用なんて無いからお金を借りることが出来ないけど、父と二人で動ける今だからこそいろんな動き方が出来るはずだから、今協力してほしいんだ!』という話を父としました。
それこそプロジェクトに関わってくれた方々へたくさん相談しながら、新しい価値を少しずつ形にしていったんです。
最終的に父が納得してくれた決め手は、プレオープン時に過去最大の利益を上げたことでした。
プレオープンの日、薬師温泉としてはめちゃくちゃチャレンジングなセット販売をしたんです。
『入浴+飲み物+ステッカー+オリジナルタオル=1,000円』っていう、このパッケージだけで売ったんですよ。
父から「1,000円払って銭湯に人が来るわけねぇだろ。」って言われながら。笑
僕としてはこのパッケージで売ることを成功させないと前に進めないし、3代目から納得もしてもらえないから必死でした。
結果的に、過去最大の利益が生まれて。
父も「おぉ!すごいじゃん!」って言ってました。笑
そこからは3代目もバンダイコーヒーの大切さを実感してくれて、いろんな新しいことへのチャレンジに対しても頭ごなしに否定されることは無くなりましたね。
【奥様談】
彼との出会いが東京の保育園だったので、保育についての彼の熱い想いはずっと聴いていたんですよ。
私も保育士なので、彼の目指す『子どもが主体的に活動する保育』には共感していて、その保育の形を実現するために手伝いたいっていう気持ちが結婚当初は強かったです。
薬師温泉のリノベーションプロジェクトは、鹿児島に私が来てからどんどん動いていった感じなんですけど、保育の熱い想いと同じぐらい、温泉への熱い想いも聴いているので、出来る限り応援したいし、お手伝いしたいなっていう気持ちです。
今は子どもが小さいので、あんまりお手伝いできてないんですけど,,苦笑
たしかに。。
日中は認定こども園で副園長として働いていて、帰ってきてから温泉の4代目として夜中まで働いてる毎日なので。。
気づけば子どもが大きくなってた..みたいなことにならないよう、気をつけます!
薬師温泉は文教区と呼ばれるエリアにあるので、子ども達が来やすい、親子連れで訪れやすい銭湯にしていきたいです。
不定期で、幼稚園から絵本をたくさん借りてきて、待合スペースに置いておくイベントをしているんです。
バンダイコーヒーの周りで親子の会話が増えたり、絵本をきっかけにおっちゃんが読み聞かせを始めるみたいなことが、自然発生的に起こってくれたら最高だなって思っています。
薬師温泉
住所:鹿児島市薬師1丁目22-36
営業時間:6:00-23:00
定休日:年中無休(年に数回メンテナンスによる臨時休館あり)
料金:大人12才以上(中学生以上)420円
中人6才-12才未満(小学生)150円
小人6才未満(未就学児)80円
駐車場:15台
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