最前線で働く公務員が、日々どんな思いで働いているのかを深堀る『公務員図鑑』
今回のゲストは、鹿児島市役所で事務職として働く上木寿人さんです。
第1話では、グリーンツーリズム推進課の業務や、仕事に対する考え方について、お話を伺いました。
上木さんの姿をとおして、普段日の目を見ることが少ないけど必死に働いてる公務員の姿を、少しでも身近に感じてもらえると嬉しいです。
<聞き手=森満 誠也(KagoshimaBase編集者)>
上木さんのプロフィール
1980年生まれ。
鹿児島県奄美出身。
大学を休学し1年間旅に出た後、鹿児島のために働きたいという想いで鹿児島市役所へ入庁。
事務職として福祉や税関係の部署を経験し、現在はグリーンツーリズム推進課で働く。
人を惹きつける持ち前の明るさを活かし、グリーンツーリズムに関する業務を行う。
2021年5月に第二子が産まれたことを機に、2021年6月から2022年3月まで育児休業を取得中。
家族との時間を大切にしながら、育児&家事に奮闘している。
公務員としての顔
グリーンツーリズムを推進するということ
グリーンツーリズム推進課の業務って、主に何をしてるのですか?
あまり具体的にイメージできていなくて。
役所的な言葉で言うと、都市と農村の交流促進。
全国の都市部から鹿児島市の農村部に来てもらって、田舎を楽しんでもらうための仕掛けをしてますね。
都市部から田舎に人を呼ぶことのメリットって何ですかね?
ざっくり言うと、農村部の地域にお金をおとすということ。
これが大きなテーマなんです。
田舎に人が入ってくる
→人の滞在時間が増える
→滞在時間が増えると、田舎にお金が落ちる
なるほど。
例えば、関東圏の中学校や高校が修学旅行で農家民泊をするためのアテンドをしたり、棚田を使ってイベントを企画したり、農業体験を企画したりして、田舎に人がくる流れを仕掛けてます。
農家民泊について
農家民泊って、具体的にどんなことをするんですっけ?
修学旅行の場合で言うと、田舎暮らしが体験できる家に、生徒が3~5人泊まって生活をする。
都会の中高生からすると、鹿児島の田舎の家に足を踏み入れるだけで、そこには別世界が広がっているんですよね
「夜は真っ暗&静かで、朝は鶏がうるさいぞ…‼」みたいな。笑
なるほど。笑
都会での暮らししか経験したことがない中高生からすると、ドラマとかマンガの中の世界なのかも。
そうそう。
中高生だけじゃなくて、先生たちも「すごい!」って言ってますもんね。笑
そもそも農家民泊の受け入れって、どこから依頼がくるんですか?
学校から直接市役所にくるわけじゃないですよね?
旅行会社から、『こういうプランを企画してるんですけど、どうですか?』って提案がくるんですよ。
その提案を聞いて、内容を見ながら判断するイメージですね。
面白い!
ただ、コロナ禍で県外に出かけにくい状況になって、農家民泊の件数としては減ったんじゃないですか?
全く来なくなりましたね。
修学旅行も、全く無くなってしまったし。
そうなっちゃいますよね。。
今はとにかく準備期間だと思っています。
くるべきタイミングがきた時に、すぐ動き出せるように。
なるほど。
まぁでも、農家民泊を受け入れてくださる方たちは、多種多様な事業をやってる方が多いから。
『今は出来ることをとにかくやる!』っていう感じですね。
地域の人との信頼関係がすべて
話を聴いてると、地域の人とのつながりがめちゃくちゃ大事な仕事のように感じるんですが、その辺りはいかがですか?
大事大事!
僕らは地域にどんどん入って行って、顔を覚えてもらわないと仕事にならないから。
何も用事がなかったとしても、コミュニケーションを取るという意味で積極的に現場に行くようにしています。
農家民泊以外でも、グリーンツーリズムを行ってる方と連携することが多いんですか?
そうですね。
鹿児島市主導でやるっていうよりは、みなさんの活動がより良くなるために、行政として何ができるかをまず探りますね。
色々な事例も常に調べておきながら、「他都市ではこんなことやってる地域もありますよー!」みたいな話を雑談の中で伝えたり。
コンサルタントとかアドバイザーに近いこともしてるんですね。
というよりは、どうすれば一緒に良い方向に進んでいけるかを考えて、活動してる方と一緒に悩みながら伴走するイメージかも。
なるほどなぁ。
市役所の仕事って、やっぱり幅広い。
「お金がないとできない仕事」じゃない
鹿児島市もコロナ禍でかなり財政的に厳しい状況ですが、2021年度のグリーンツーリズム推進課の事業はどんな感じですか?
どこの課も予算削られてて、なかなか苦しい状況だという話を良く聞きますけど。。
うーん、たしかに予算は少なくなったけど、うちの課の仕事って『お金がないとできません!』っていう仕事じゃないんですよ。
???
グリーンツーリズムの活動をしてる人達の支援をする仕事だから。
金銭的な支援ももちろんありますけど、それ以外にも支援の方法ってたくさんある。
なるほど!
課題を共有したり、新しいことに取り組んだり、一緒に伴走することも仕事なわけですもんね!
そうそう。
だから、例年とあんまり変わらないといいますか。
コロナ前の予算自体も、もともとそんなに多くなかったからね。笑
典型的な一日の流れ
話を聞く限り、グリーンツーリズム推進課の仕事って、デスクワークっていうよりは、外に出ることが多いのかなっていう印象です。
ざっくりでいいので、標準的な一日の流れを教えていただけますか?
朝1~2時間使って事務作業をササっとこなします。
そこから外に出て、直売所や関係者の所に顔を出しに行き、昼帰ってきてご飯を食べて、午後からは午前とは違う地域に顔を出しに行く。
みたいな感じですね。
やっぱり、『現場に行くこと』を大切にされてる働き方なんですね。
デスクに座ってても何も始まらないからね。
現場に行って話をする方が、何かしら楽しいことが起きるので。笑
どのエリアに行くことが多いですか?
やっぱりグリーンツーリズム推進課が所管してる直売所、吉田にある『輝楽里よしだ館』とか、桜島にある『道の駅「桜島」火の島めぐみ館』に行くことが多いですね。
市役所が所管する直売所って、どんな形で運営されてるんですっけ?
地域の農家の人達が組合をつくって、その組合が運営してます。
JA(農協)が運営してるわけじゃなくて?
そうではなくて、本当に地域の農家さんが自分たちで販売員を雇用して運営してるんですよ。
だからこそ、色々な話を聴いて情報交換をしたり、一緒にやれること模索しながら、一緒に前に進めればと思っています。
結局、人と人のつながりが大切なんですよね。
なるほど。
コロナ禍以前は、地域の人達との飲み会も多かったですしね。
飲むと仲良くなれるじゃないですか。笑
腹を割って話をしながら、関係性を構築するわけですね。
店で飲むだけじゃなくて、農家さんの軒先で飲んだりね。笑
採れたての野菜を出してくれたりして、すごく楽しいんですよ!
職員の性質
鹿児島市役所の中でも、特にコミュニケーション能力が求められる仕事ですよね。
どんな職員が配属されるかが、仕事に大きく影響してきそうですけど、その辺りはいかがですか?
そう思います。
「書類だけやってればいいじゃん」みたいな人だと、周りもその人自身も結構辛いかも。
職員の持つ特性と、仕事で求められる性質のマッチングって大事ですよね。。
上木さんって、人と関わることが好きタイプですか?
好きですね。
人と関わる仕事の方が向いてると思います。
逆に、きっちりこなす系の仕事は出来なんですよね。。笑
気づいたら公務員になってた
そんなイメージです。笑
そもそも、なぜ公務員に?
上木さんって、いわゆる世間一般的な公務員像とは違うなっていう印象を持ってて(ほめてる)。
正直、役所にはあんまり興味なかったんです。
大学生の頃は旅が好きで、大学を1年間休学して、色々な場所に旅をしてて。
すごい!
ただ、旅から帰ってきたら、就活の流れに出遅れてて。。笑
焦って調べ始めたら、公務員試験しか残っていなく、慌てて公務員試験の勉強を始めたんです。
上木さんが就活してた頃って、就職事情はどんな感じだったんですか?
就職難の時代でしたね。
結果的に1年半ぐらい公務員試験の勉強をして、鹿児島市役所に入りました。
だから、『公務員としてこれがやりたい!』みたいな想いがあって公務員になったわけではないんですよ。
わかります。
僕も同じです。笑
就職自体にも興味がなかったといいますか。。
気づいたらここに居たといいますか。。笑
僕のターニングポイント
笑笑
上木さんって昔から明るくポジティブに仕事をするタイプだったんですか?
普通に公務員として働いてると、どうしてもモチベーションって下がるじゃないですか?
いやっ、最初の頃は違ったかな。
昔の僕は楽しく働くっていうより、バリバリ仕事をこなそうとしてて。
へぇー!
全然想像つかないです。
プライベートを仕事に寄せていってたんですよ。
分かりやすく言うと、休日も出勤して仕事してたし、残業もどんどんやりますみたいな。
でも、全然仕事が上手くいかなくて。
毎日のように怒られてて、「あぁ、もうだめだな」って思いながら、毎日仕事をしてましたね。
なるほど。。
『なんでうまくいかないんだろう』って考えたんです。
で、色々考えた結果、割り切ろうと思って。
自分の性格的に、きっちり仕事をするのが苦手なんですよ。
(うんうん)
きっちりやる部分は苦手だけど、逆に自分に出来ること&得意なこともあるから、そっちで勝負するしかないなって。
今までは、プライベート犠牲にして仕事に寄せて行ってたけど、逆に仕事を楽しんでプライベートに寄せて行こうって思ったんです。
仕事を楽しむっていう方向性に切り替えたわけですね。
そうそう!
仕事中も、どこかに楽しみを探したり、自分が楽しく思えるように工夫したりするうちに、だんだんと仕事自体も上手くいくようになったんです。
最高ですね…‼
グリーンツーリズム推進課の仕事なんて、完全に仕事を楽しむ方に寄せてますしね。笑
僕らの仕事って、基本的に人に来てもらわないといけない仕事だから、そもそも自分たちが楽しくないと、来たいと思ってもらえないでしょ?
たしかに。
だから、自分たちでやってて楽しくない事業は、どんどん辞めるようにしてるんです。
やってて楽しくないイベントに、人が来てくれるはずがない。
やっぱり自分たちが『やってて楽しいな!』って思うやつは、参加者の満足度も高いアンケートの結果になってて。
めちゃくちゃ面白いです!
だから、仕事をプライベートに寄せて楽しもうと思ったことが、僕のターニングポイントだったかもしれないですね。
ただ、この仕事の仕方をしてると、危ない面もあって。
危ない面?
周りから、「仕事と関係ないことしてる‼サボってるんじゃないか⁉」って思われがちっていう。。笑
わかる!
仕事中に新しい企画とか面白いアイデア思いついたら、そっちを深掘ってしまって、自分の目の前の業務と関係ないことをしてると思われるんですよね。笑
そうそう。笑
でも、怒られたら「すみません!」って謝ればいいんじゃないかって思ってます。
間違いないです。笑
そう言えることが、上木さんの最大の魅力だと思います。
死ぬ前に何を思うか
まぁ、あんまり難しく考えないようにしてて。
以前妻に言われた言葉が、こう思えるようになった要因かもしれない。
詳しく聴かせてもらっても良いですか?
妻は給食技師として鹿児島市役所で働いてるんですけど、仕事に対して僕よりもドライなんですよ。
ふむふむ。
仕事に対して悩んでる時、妻に相談したら、
『死ぬ前に、あーもっと仕事しとけばよかった…って思わないでしょ?』
って言われて。
…‼
『もっと家族と過ごせばよかったとか、もっと旅行すればよかったとは思うかもしれないけど、そこで仕事は頭に浮かばないでしょ?だから、仕事中心で考えるのやめたら?』
って言われて、その通りだよなぁって思ったんですよ。
奥様、最高ですね…‼
まとめー前編ー
仕事をプライベートに寄せる
上木さんがうまくいかない状況から抜け出すときに、こう考えるようになって、すべてがうまく回りだしたという話が興味深かったです。
モノゴトがうまくいかない時って、周りのせいとか環境のせいにしてしまいがちじゃないですか。
僕も身に覚えがあります。
本当に苦しい時に、パートナーの話を素直に受け止め、自分の考え方を切り替えられること。
そこに上木さんの人間性とか強みがぎゅっと詰まってる気がして。
ということで、第1話では、グリーンツーリズム推進課の仕事や、仕事に対する考え方について、お話を伺いました。
第2話では、2021年6月から2022年3月まで10か月間の育児休業を取る、その真相に迫る予定です。
ではまた次回、お会いしましょう!
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