【前編】行政内部にいるからこそ出来ることがある【上野博文|南九州市役所土木職】

公務員図鑑

最前線で働く公務員が、日々どんな思いで働いているのかを深堀る『公務員図鑑』

今回のゲストは、南九州市役所で土木職として働く上野博文さんです。

この記事は6分で読めます^^

前編では、上野さんが今まで歩んできた職歴や、南九州市役所での働き方について、お話を伺いました。

上野さんの姿をとおして、普段日の目を見ることが少ないけど必死に働いてる公務員の姿を、少しでも身近に感じてもらえると嬉しいです。

<聞き手=原本太郎(南九州市地域おこし協力隊/Ten-Lab)、上木寿人(KagoshimaBase取材者)、森満 誠也(KagoshimaBase編集者)>

上野さんのプロフィール

1979年4月生まれ。

鹿児島県南九州市川辺町出身。

高校までを鹿児島で過ごし、山口大学工学部で土木について学んだ後、Uターンし、川辺町役場(現 南九州市役所)へ入庁。

土木職ながらも、建設課や企画課、法制、公園など、幅広い業務を担当してきた。

北九州市役所へ2年間の出向も経験しており、その際にリノベーションスクールを知ったことで、公民連携に関心を持つ。

自身も、都市経営プロフェッショナルスクールの卒業生。

土木出身の枠にとらわれない、幅広い視野を持つマルチプレイヤー。

働き方について

財源の話をもっと深堀りたい

森満
森満

よろしくお願いします!

お久しぶりですが、お元気ですか?

上野さん
上野さん

よろしくお願いします!

元気じゃないのよ。笑

 森満
森満

元気じゃないんですか…‼笑

今年異動されたんでしたよね?

何課でしたっけ?

 上野さん
上野さん

建設課でバリバリ土木の仕事をしてます。

道路の改良とか、橋梁の補修とか。

 森満
森満

THE土木って感じ。笑

 上野さん
上野さん

正直、土木の仕事があんまり得意じゃなくて。

そこは葛藤の毎日ですね。。

ただ、橋梁の補修に関しては、これから全国の自治体で問題となるポイントだから、財源とかも含めて深堀していきたいなぁって思ってます。

 森満
森満

特にコロナ禍以降、財源が圧倒的に不足してて、維持管理の問題ってかなり根深いですよね。

僕は建築職なんですけど、建物の方でもかなり深刻だなぁって感じてます。

 上野さん
上野さん

そうなんですよね。

お金の使い道、特に『どこに限られた財源を充てるか』みたいなことを、もっと考えていきたいなって思います。

 森満
森満

というと?

 上野さん
上野さん

例えば、道路の補修にしても、市民からの要望を聴くだけじゃなくて、『この道路をきれいにするためにいくらかかって、一人当たりいくらの負担なんですよ』みたいな、自治体運営の根っこの部分から市民の方々と一緒に考えていきたい。

ごめんなさい、全く関係ないんだけど、取材現場だった『さくらじまjacobspice』のカレーが美味すぎたから是非食べてほしい。

土木出身だけど一般職採用

上木
上木

面白いです。

上野さんって、土木職で採用されてるんですか?

 上野さん
上野さん

そうですね。

採用された時は川辺町役場だったんですけど。

上木
上木

なるほど。

 上野さん
上野さん

ただ、職場は、本当に色々な部署を転々としてるんです。

最初は『建設課』で、町営住宅の家賃管理とか滞納処理をしてました。

上木
上木

へぇ!

 上野さん
上野さん

そこから土木の仕事も少しずつやらせてもらったり、法制(法律と制度)の担当になったりして。

 上木
上木

法制担当やってたんですか⁉

 上野さん
上野さん

そうなんです。笑

法制担当って堅いイメージがあると思いますけど、僕自身としてはすごく勉強になりました。

色んな条例に触れる機会があって、条例の作り方が分かるようになったので、自分の視野がすごく広がりましたね。

 上木
上木

たしかに、特定の分野っていうよりは、自治体を俯瞰する仕事ですもんね。

おもしろい。

 上野さん
上野さん

そこから合併があって南九州市になり、土木で2-3年働いてた時に、北九州市と南九州市の人材交流があるということが分かって。

「これは今行くしかない!」と思って、2年間北九州市役所で自治体間の広域連携みたいな仕事をしましたね。

すごく刺激が多くて、面白かったなぁ。

 上木
上木

なるほど。

北九州市役所時代。関門トンネルでのひとコマ。
 上野さん
上野さん

そこから南九州市に帰ってきて、企画課に1年いた後、道路維持課で3年働きました。

 上木
上木

そこで土木に戻されるんですね。笑

 上野さん
上野さん

マジかよと思いましたよ。笑

ただ、道路維持課の後に都市計画課に異動して公園の担当を任せてもらえることになるんです。

最初はあんまり興味がなかったんですけど、指定管理の施設とか公共施設に触れるうちに、『公園の利活用って楽しいじゃん!』と思い始めて。

結局5年間やることになるんですけど、公園担当時代もすごく楽しかったですね。

北九州市役所職員として、東京に要望活動に行った時の様子。

南九州市は課長職がトップ

 上木
上木

上野さんって今、係長でしたっけ?

 上野さん
上野さん

いやっ。

まだ平社員です。笑

南九州市って、勤続年数で昇進するので、完全な年功序列なんですよね。

森満
森満

鹿児島市も一緒です。

ポストの数は決まってる&年功序列だから、上の人が退職しない限りポストが空かない。

 上野さん
上野さん

一緒一緒。

南九州市は部長とか局長のポストが無くて、課長が一番上のポストなんですよね。

なので、係長になるのも遅いし、50代後半になってやっと課長になる感じですね。

 森満
森満

なるほど!

議会答弁とかも課長がする感じってことですか?

  上野さん
上野さん

そうそう。

人事評価制度ってこんな感じ

原本さん
原本さん

今、昇進の話が出ましたけど、市役所の人事評価制度ってどんな感じで運用されてるんですか?

森満
森満

鹿児島市の場合は、『業績評価』『能力評価』っていう大きく2つの軸に分かれてて。

業績評価は半年に1回、能力評価は1年に1回、評価する&される感じです。

上木
上木

業績評価の場合は、『今期はこれとこれを業務としてやります』って、最初に目標を書くんだよね。

半年後、その業務がどうだったか、自己評価、1次評価(上司)、2次評価(さらに上の上司)って出していく感じ。

原本さん
原本さん

なるほど。

全部上の人から評価をされるんですね?

森満
森満

そうそう。

評価もs,a,b,c,dってあって、標準がbだから、みんなbをつけるみたいな。笑

上野さん
上野さん

へぇ!

南九州市はaが標準です。

評価の基準が違うのかもですね。

上木
上木

というか標準って何なんだっていう話ですけどね。笑

原本さん
原本さん

sって書いちゃダメなんですか?

上木
上木

ダメじゃないんです。

ダメじゃないんだけど、なんとなく空気感として、sとかdは付けづらい空気感があって。

森満
森満

そうそう。

結構前ですけど、能力評価の中で、例えば『挑戦』っていう項目はめっちゃ頑張ったからs、『規律』はあんま意識してなかったからdってつけたら、「sとかdって何?」みたいな空気になったことがありますもん。笑

原本さん
原本さん

僕が前居た民間の会社は、自分の上司も部下も、全員が全員の評価をするっていう感じでしたよ。

森満
森満

部下が上司を評価するの?

原本さん
原本さん

そうそう。

森満
森満

それめっちゃいいですね!

原本さん
原本さん

だから、ダメな上司はみんなの評価も低くなるんですよ。笑

その評価を基準に、昇進とかって決まってましたよ。

行政組織内部にいるからこそ出来ること

森満
森満

なるほどなぁ。

また少し話は変わりますけど、最近『自分がやるべきことって何なんだろう』って、よく考えるんですよね。

行政組織の内部にいるからこそ出来ることがもっとあるんじゃないかって。

  上野さん
上野さん

なるほど。

それで言うと、原本さんが協力隊員として着任する前の話なんですけどね。

公園の担当だった時、『番所鼻公園に協力隊員を配置する』って、出来たら良いけど無理だよなぁって、内部で言われてた時があって。

森満
森満

うんうん。

  上野さん
上野さん

「もし公園に協力隊員を入れることが出来たとしても、役所側の考え方としては、いわゆる公園の管理人さん的な立ち位置として協力隊員の存在を考えちゃうかもですね」って、NPO法人頴娃おこそ会の加藤さんとかとも話をしてたんです。

NPO法人頴娃おこそ会の加藤潤さん。現在はコミュニティ大工として、鹿児島県内外を駆け回る。
森満
森満

役所の常識で考えたら、そういう考え方になっちゃいそうですよね。

  上野さん
上野さん

番所鼻公園って、たしかに所有してるのは南九州市なんだけど、頴娃おこそ会の方々が盛り上げて有名な観光地にしてくれた場所なんです。

しかも、公園の掃除とかも、頴娃おこそ会の方々がボランティアでしてくれてるような状況があって

 森満
森満

うんうん。

番所鼻公園。奥に見える建物がタツノオトシゴハウス。海の見える絶景スポット。
  上野さん
上野さん

南九州市としてはそれってすごく助かる部分が大きいんですけど、ただ、その善意に甘えたままでいいのかって思ったんですよ。

『長い目で見た時に、今の状況って健全な形じゃないから、市とおこそ会の立ち位置を明確にした方が良くて、その上でちゃんと運営していけるような仕組みをつくりましょう』って、そういう話を行政内部でずっとしてたんです。

 森満
森満

間違いないです。

  上野さん
上野さん

そんな時に協力隊員の話になって、『公園に協力隊員をつけて、パークマネジメントとか公民連携の仕組みづくりをやってもらおう!』っていう空気感になって。

 森満
森満

すごい話ですね…‼

そんなこんなで南九州市地域おこし協力隊として着任した原本太郎さん。
  上野さん
上野さん

それも急にパパッと進めたわけじゃなくて、公園の担当係長と加藤さんの話す機会をつくったり、お互いの考え方をお互いに伝えたり、かなりじっくり話を進めた感覚ですね。

 森満
森満

それって、まさに行政組織内部にいる僕らに求められてることだと思います。

それ、僕出来てないなぁ。。

  上野さん
上野さん

いやっ、そんな大したことじゃなくて、僕は引き合わせて、後ろから見てただけだから。笑

 森満
森満

いやいや!!

だって上野さんのポジションがないと、民間と行政の接点が無いわけだから。

まさに公民連携じゃないですか。

最高ですよ。

  上野さん
上野さん

そうかなぁ。

まぁ、当時の上司が人の話をじっくり聴いてくれる方だったから、僕も心配せずに引き合わせることが出来たんですよ。

 森満
森満

あぁ!

そこもかなり重要なポイントですよね!

  上野さん
上野さん

そうそう。

何度も話し合いを重ねて、時には観光系の部署も混ざってもらって話し合いをしたりね。

 森満
森満

素晴らしい。

同じ組織内部からも後押ししてもらうことって、地味に効くんですよね。笑

  上野さん
上野さん

そうですね。笑

まぁ、自分も良く分かってなかったから、考えて色々動きながら、こっちもダメ、あっちもダメだった、、と思いきやこっちの道見つけた!みたいな感じで。

正解って動きながら見つけていくものですよね。

現在、番所鼻公園では、協力隊の原本さんが仕掛けるキッチンカーのイベントでにぎわいを見せる。

まとめー前編ー

行政の言語と民間の言語を翻訳する

行政職員という組織の人間でありながら、南九州市役所の公園担当としての姿と、一個人としての姿を使い分け、行政と民間の間で立ち回っている姿に、めちゃくちゃ感銘を受けました。

これこそ、行政内部にいる職員にしか出来ない仕事

行政側の理屈や言語と、民間側の思考や言語、どちらも理解してるからこそ、お互いの考えを翻訳してお互いに伝えられるわけで。

こういう存在って、スポットライトは当たりにくいけど、めちゃくちゃ重要なキーマンだと思うし、僕はめちゃくちゃかっこいいなと思います。

上野さんが着てたこのTシャツがインパクト強すぎて、ずっと気になってました。笑

というわけで、前編では上野さんが今まで歩んできた職歴や、南九州市役所での働き方について、お話を伺いました。

後編では、上野さんが今やりたいことや、公務員としての生き方について、お話を伺います。

ではまた次回、お会いしましょう!

前編 行政組織内部にいるからこそ出来ることがある【公務員としての立ち回り方編】

後編 仕事とやりたいことのハザマで葛藤する【悩み編】

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