最前線で働く公務員が、日々どんな思いで働いているのかを深堀る『公務員図鑑』
今回のゲストは、鹿児島市役所で化学技師として働く有村太一さんです。
前編では、化学技師の働き方や、ゼロカーボンシティについて、お話を伺いました。
有村さんの姿をとおして、普段日の目を見ることが少ないけど、必死に働いてる公務員の姿を少しでも身近に感じてもらえると嬉しいです。
<聞き手=森満 誠也(KagoshimaBase編集者)>
有村さんのプロフィール
1982年生まれ。
鹿児島市出身。
九州大学で化学を学んだ後、地元の鹿児島で働きたいという想いで鹿児島市役所へ入庁。
化学技師として採用され、保健環境試験所、水道局、環境保全課を経て、現在は環境政策課で地球温暖化対策のとりまとめやゼロカーボン等を担当している。
ゼロカーボンシティを宣言をした鹿児島市で、2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにする都市の実現にむけて、日々奮闘中。
公務員としての顔
化学技師という仕事
よろしくお願いします!
お久しぶりです!
久しぶりです。笑
こちらこそ、よろしくお願いします!
有村さんって化学技師として採用されてますよね?
化学技師って鹿児島市役所の中に何人ぐらいいるんですか?
ですよー。
化学技師は市役所全体で40名ぐらいかなぁ。
思ったより結構多いんですね!
化学技師ってどんな職場に配属されて、どんな業務をするんですか?
化学技師の仕事に対して、イメージがつかめていなくて。
水道局に配属されることが多くて、浄水場で水質検査をしたり。
環境系の配属先が多いけど、結構幅広く色々な課に配属されてるよ。
業務としては、環境に関する検査や食品の検査をしたり、事務作業もあるし、企画系の業務もありますね。
水質検査とか食品の検査って、まさに化学技師のイメージ。
ちなみに有村さん自身は、今まではどんな配属先を経験してきましたか?
最初の配属先は『保健環境試験所』っていう所でした。
そこで環境とか食品の検査をしたり、工場へ立入検査をしたりしてましたね。
指導とか是正とか。
なるほど。
そこから水道局、環境保全課を経て、今は環境政策課で働いてます。
ゼロカーボンシティを目指すということ
今所属されてる環境政策課では、どんな業務を担当してますか?
地球温暖化対策がメインです。
ゼロカーボンシティかごしまに関するデータのとりまとめをしたり、環境基本計画をつくったり。
ゼロカーボンシティかごしまとは
地球温暖化によるリスクを低減し、持続可能な未来を実現するため、2050年までに鹿児島市の二酸化炭素排出量を実質ゼロにすることを宣言するもの。
以下↓鹿児島市HPより
近年、猛暑や豪雨など異常気象による災害が国内外で増加しており、世界的に「気候危機」と呼ばれるほどきわめて切迫した状況にあると言われています。
このような中、本市は国際社会の一員として、2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにする都市の実現に、市民や事業者等と一体になって取り組むことを決意し、「ゼロカーボンシティかごしま」への挑戦を宣言します。
ゼロカーボンシティかごしまHP:https://ok-kagoshima.jp/
やってますよ!
ゼロカーボンラボ、今年は出来てないんですけど、25歳以下の参加者が全5回の講座をとおして地球の今や気候変動について学び、行動に移すところまで行う事業でした。
ゼロカーボンラボの中で、特にエコレポの取り組みが面白いなと思って。
エコレポ、面白いよね!
鹿児島市内のECOなお店・人・場所などを紹介することで、環境に優しい選択肢を提示してて。
その着眼点を持ちながら、しっかり取材に行って記事にしてて最高でしたね。
ただ、ひとつ残念だったことがあって。
noteに結構な数の記事が上がってるのにも関わらず、イイネの数が少ないなぁと。
全部1桁台のイイネだったのが、すごくもったいないというか、もっと大人たちの頑張りで、記事自体を多くの人に届ける努力ができたんじゃないかと。
なるほど。。
僕も記事を書く中で思うことがあるんですけど、記事を書いて更新するって結構孤独なんですよ。
だからこそ、イイネの数や閲覧数、『記事読んだよ!』っていう具体的な声がすごく励みになる。
『書いてよかった!』って思える。
そこを、エコレポの子たちに対して、僕も含めて大人側がもっとしてあげられたんじゃないかって。
なるほどなぁ。
なんか偉そうにすみません。。
ただ、似たような広報とかPR系の事業は他の課でもやってるから、課を超えてコラボができそうですよね。
グリーンツーリズム推進課とか、広報戦略室とか。
たしかに。
それこそ森満さんが住宅課にいるうちに、市営住宅の断熱とかもね。笑
たしかに。笑
本気で断熱にコミットして、エネルギーの敷地内循環を図るみたいな、振り切ったやつをやりたいですよね。
僕自身、断熱の分野に関しては知識不足を痛感しているので、学んでる最中です。
ただ、色々な展開、案はイメージできるんですけど、いざ実行するための庁内調整が難しいのも、内部にいるからすごくわかります。。
そうなんですよね。
特に環境政策課は、実行部隊じゃないのが辛くて。
というと?
政策や企画を立案するところまではやれても、実際に住宅をやるのは住宅課だし、交通系だと交通局。
国の事業でおもしろそうな公募があったとしても、自分たちの課で取り組むわけじゃないから、まず庁内調整が必要で、そこの段階でつまずくことが多いのよね。
それ、めちゃくちゃリアルな事情ですよね。
もはやどっちが良い悪いっていう次元の話じゃなくて、システムの問題な気がしています。
システム?
本気でゼロカーボンシティに向かって前進するなら、ある程度環境政策課が権限を持った形でやるとか、上層部から意思決定をおろすとか。
いずれにせよ、鹿児島市としての本気度が問われてると思いますし、民間の攻めてる企業は、そこを敏感に察知してるので。
本気で向き合ってる有村さんが担当のうちに、良い流れを作りたいじゃないですか!
アクティブ・ゼミでの産学官連携
ちなみに、2021年度は、昨年のゼロカーボンラボに変わるような事業があるんですか?
鹿児島市の事業ではないんだけど、鹿児島大学の法文学部にアクティブ・ゼミっていう授業科目があって。
アクティブ・ゼミ?
その授業を使って、民間企業×大学×市役所の産学官連携で、ゼロカーボンを扱ってくれているんです。
2021年度の前期なので、今まさに授業が進んでるところで。
面白そう!
授業では、地球の現状を知り、ゼロカーボンの必要性を学ぶところから始まって。
ただ学んで終わりじゃなくて、学生×ゼロカーボンパートナーの企業で、実際に何が出来るかみたいな、踏み込んだ部分まで扱っていて、面白いなぁと思っています。
講座を受けてる学生の中には、昨年のゼロカーボンラボ参加者も居たりして。
なるほど!
いいなぁ、僕が参加したかった。。
というか、学生×企業で実現されるアイデアがめちゃくちゃ気になります…‼
そこ興味あるよね!笑
ありますね!
(できれば構想段階の今から、KagoshimaBaseで追わせてほしい。。)
先日、授業の様子を見させてもらったんですけど、全体的に学生の意識が高くて。
特に、グループワークする前のチェックインって呼ばれる、挨拶とか自己紹介も、ファシリテーターに促される前に自発的にしてて。
ワークショップ慣れしてる学生が多かったのも、僕からしたらお驚きでしたね。
鹿児島市がゼロカーボン宣言をした理由
そもそも、令和元年のクリスマスに、鹿児島市はゼロカーボンシティを目指す宣言をしているわけですが、なぜゼロカーボンを目指そうっていう流れになったんですかね?
国が目指す方針に共感したのはもちろん、鹿児島市は災害を色々と経験してるっていう部分も大きかったんじゃないかなぁ。
自然災害を防ぎ、生態系を守る、その原因を根本的に解決する方向に舵を切ったわけだよね。
なるほど。。
鹿児島県内で、この宣言をしてる自治体って、結構たくさんあるものなんですか?
2021年5月現在だと、鹿児島県、鹿児島市、知名町、指宿市だけですよ。
まぁ鹿児島県が宣言してるから、鹿児島全体で取り組みましょうっていう方向なんだと思います。
鹿児島市独自の施策は?
ちなみに、ゼロカーボンシティに向けて取り組む上で、他の自治体には無いような、鹿児島市独自の施策があります?
独自の施策だよね。。
今のところ、ゼロカーボンラボや市電のラッピングなどの普及啓発が主になってるから、もっと考えなきゃいけないなぁと感じてます。
検討中だけど面白い取り組みの一つとしては、鹿児島市の清掃工場で自家発電をしてて。
今まで、清掃工場で使用する以外の余った電力は売電してたんだけど、それを公共建築物で使用できないかっていう検討をしてるんですよ。
へぇー!
それって、割合で言うと市の施設全体のどれぐらいをカバーできるんですか?
机上の計算だけでみると、結構な割合の電力をまかなえるみたいなんですよね。
ただ、電力を分配する時の課題が結構あるみたいで。
それが実際にできるとなれば、独自性の高い取り組みになるかな。
組織の部署を越境することで見える世界
なるほどなぁ。
話をしながら思ってたんですけど、ゼロカーボンシティの分野って幅広いですよね。
やれること、めちゃくちゃたくさんありそうだなぁって。
僕は建築技師なんですけど、建築の分野もゼロカーボンに絡んでいけそうだなと思ってます。
建築はまさにゼロカーボンには欠かせないジャンルですから、絡んでいきたいですよね!
環境政策課に建築技師はいないけど、環境×建築で一緒にやれたら面白よなぁって思いました。
先ほども話の中で出てきましたが、断熱のジャンルとか。
断熱で言ったら、先日記事になってた泊さんの記事【学校の断熱化】が読んでて面白いなぁと思いました!
一緒に出来たらなぁ。なんとかならんかなぁって。
市営住宅とか学校の断熱性能を上げて、環境負荷を低減させるみたいなことをやれたら面白いですよね。
やりたいですよね!
僕自身が今住宅課に配属されて、1ヶ月ちょっとですけど、市営住宅って思いのほか福祉的意味合いが強いんだなって感じてて。
市営住宅を使って攻めた施策をする余白が、計画的にも財政的にも全くないんですよね。
まぁ、そこはありますよね。
実験的にでも、やっちゃえばいいんじゃないのかなって、個人的には思うけどね。
そうなんですよ!
完全に横並びじゃなくて、グラデーションがあってもいいじゃんって、個人的には思っちゃうんですけど。。
実際、団地再生と絡めて、市営住宅の利活用みたいな部分を進めてる自治体も、全国的にはあるわけで。
実施計画みたいな、市役所として形式的に決まった範囲でやれることをしっかりやりつつ、いつ攻める方向に舵が切られても対応できるよう、アイデアだけは握っておきたいよね。
たしかに。
新規事業をやる上で、部署を横断すると役所内部の調整が難しくなるのはすごくわかるんですけど、それでも大崎町みたいに振り切って、環境の分野で攻め込めたら面白いよなぁと思っちゃうんですよ。
こういうアイデア出しを、市役所内に散らばってる色々な分野の技師職とか事務職で議論したいなぁと思っていて。
いいかも!
市役所内って、事務職が多いけど、有村さんとか僕みたいに、多種多様な技師もいるわけじゃないですか。
建築技師、土木技師、化学技師、栄養士、保健師などなど。
うんうん。
多角的にモノゴト捉えて、議論したりブレストした方が、面白いアイデアが出ると思うし、現場のリアルな意見とか需要がくみ取れると思うんです。
とりあえずブレストだけでも、今度やってみましょう!笑
ゼロカーボンへの小さな一歩
脱線しまくりでごめんなさい。。
手軽に始められるゼロカーボンへの取り組みって、どんなことがありますかね?
そうだねぇ。。
分かりやすいので言うと、クールビズ&ウォームビズとかかなぁ。
なるほど!
市役所でもやってますもんね。
そうそう。
ネクタイを夏場に外して軽装することで、冷房負荷を抑えたり、逆に冬場に温かい恰好をすることで暖房負荷を抑えたり。
要するに空調設備による二酸化炭素の排出量を抑えましょうっていう話だよね。
いや、でもさ、こういう質問にびしっと答えられないとなぁって思ってて。
というと?
「ゼロカーボンを目指すのは分かったけど、実際に何をすればいいの?」って、事業者さんや市民のみなさんからよく聴かれるんですよ。
その時に、数字や根拠を示して、びしっと答えられないといけないなぁって。
良く聞かれそうですもんね。笑
大きなビジョンと小さな手段ってどっちもあった方がいいなって思うんですよ。
スケールが大きすぎると自分ごとになりづらいし、かといって電気をこまめに消すみたいな小さい手段ばかりだと、何のためにやってるのか分からなくなる。
どっちも知った上で、頭の中で結び付けることでモチベーションが保ちやすくなると言いますか。。
たしかに!
庁内調整の難しさ
環境政策課での仕事は忙しいですか?
忙しいねぇ。
何が理由で忙しいんでしょうか?
なるほど。
計画の策定とか、今まで携わったことがなくて、正直良く分からないんです。笑
計画策定の過程で、色々な照会とかとりまとめに時間かかりるのよね。
そもそも環境基本計画って、どんな内容なんですか?
「脱炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」なまちづくりを推進するための計画で、計画の期間が10年間なんです。
10年間先を見越して作らないといけないわけですね。
難しそう!笑
もはや明日のことも不確定な状況ですもんね。。
そうなんですよ。
ゼロカーボンシティのことも計画の中に出てくるし、それで言うと2050年のことも計画の中に書かないといけなくて。
2050年にどうなっていたいのか、どういう世界を目指すのかみたいな部分。
なるほど。。
2050年に掲げる目標と、現状とを比較しながら、バランスを取るのが難しいよね。
全く実現不可能な計画を作るわけにはいかないから。
そもそも環境政策課だけで完結する話じゃないから、庁内調整が難しそうですね。。
まさに真っ只中です。笑
もうほとんど調整業務ですね。。
その業務の大変さって、なかなか伝わらない仕事の部分だから、こうやって聞くことができて面白かったです!
まとめー前編ー
悩み、葛藤しながらも、しっかりやるべきことを積み上げる
これこそリアルな公務員像だと、感じながらのインタビューでした。
攻めたいけど思いっきり攻めれない事情も、市役所内部にいると痛いほどわかります。
そんな中でも、やれることを全力でやりつつ、いつでもホームランを打てるように準備をしておくという想いにすごく共感しました。
ということで、前編は、化学技師の働き方や、ゼロカーボンシティについて、お話を伺いました。
後編では、環境に興味を持ったきっかけや、家族とのお話をお届けしますので、お楽しみに!
ではまた次回、お会いしましょう!
コメント