“移住”という人生の大きな決断をして、鹿児島の最前線で活躍する地域おこし協力隊が、日々どんな思いで働いているのかを深堀る『地域おこし協力隊図鑑』。
今回のゲストは、阿久根市で地域おこし協力隊員として活動する齊藤詩織(さいとう しおり)さんです。
大学在学中に地域おこし協力隊になる選択をした齋藤さんの、1年目の活動報告会に参加してきました!
活動報告会では、阿久根にたどり着いた経緯から、地域での取り組み、そしてこれからの展望まで、齊藤さんの「ありのまま」が語られました。
齊藤さんのプロフィール
2001年12月3日生まれの23歳。
長野県軽井沢町出身。
大学の研究の一環で初めて阿久根を訪れ、阿久根市青果市場跡地活用事業(せいかいちばあ
とちかつようじぎょう)のフィードワークに携わる。
2024年5月1日に阿久根市地域おこし協力隊に着任。
空き家活用と移住定住促進をミッションとし、阿久根市の活性化に繋げる。
一方でデザインを軸とした活動も協力隊以外の時間を使って行い、地方にこそデザインできる人
が必要だとデザインできる人材の育成も図ろうとしている。
あだ名は「しおしー」。

阿久根との出会いは“教授の一言”
長野県軽井沢町出身で、神奈川県の専修大学ネットワーク情報学部に進学。

研究室に入らなくても卒業できたんですけど、教授が「阿久根に一緒に行かないか」と声をかけてくれたんです。それが嬉しくて。
上平 崇仁教授(阿久根市出身)のゼミで、阿久根市の青果市場跡地活用事業に関わったことがきっかけで、阿久根を初めて訪れた。
阿久根市のことはそれまでまったく知らなかったけど「言葉をなくすほどの景色とあたたかい人に出会った」と話す齊藤さん(以下「しおしー」)。

東シナ海に沈みゆく夕日。
空と海がじわじわと溶け合っていくグラデーションに、心も静かにほどけていきました。
阿久根の人たちの、あたたかさ。
名前も知らない大学生の私たちを、「よく来たね」と迎え入れてくれるまなざしに、思わず涙が出そうになったのを覚えています。

留年と家出
研究室での毎日は充実したもので、一緒に活動していたメンバーと阿久根でのフィールドワーク
をまとめた冊子の発行、調査報告書を提出し阿久根との関係がひと段落ついた齊藤さん。
卒業後の就活も成功し、後は卒業するだけ!
ただ、ここで思わぬアクシデントが。

卒業式を前に、留年が決まってしまったんです。
必要単位が足りなくて..
自動的に内定もらった会社の採用も取り消しになって。
頭の中が真っ白になりました。

卒業研究で一緒に阿久根に行った友人にも留年の話をしたんです。
その友人はフィールドワークの後も阿久根のワーケーションプログラムにも参加していて、「阿久根が恋しい」と常に言っている人でした。

その彼が、僕に言った一言が、「石川さんに連絡しろ」でした。


石川さんは阿久根の地域おこし協力隊OBで、離任後は「株式会社まちの灯台阿久根」を立ち上げて阿久根で活動している方。
言われるがままに連絡をしてみたら、石川さんは本当にすぐに返信をしてくださり、何の実績もない私に対しても丁寧に話を聞いてくれました。
ただの進路相談のつもりが、いつの間にか「協力隊やってみる?」という話になっていて…。笑

そこから先の記憶は、正直、あまりありません。

「自然と人が魅力的だった阿久根に行ってみたい」という想いが自身の中で強くなるほど、親と進路について揉めることが増えていきました。
気が付いたら親とけんかして家を飛び出していて。
「行くしかない!」という気持ちひとつで鹿児島に向かったんです。無一文状態での鹿児島上陸でした。
※今はご両親との関係も少しずつ修復して、連絡を取り合っている関係性とのことです!(良かった..!!)

免許と車と阿久根での出会い

阿久根に来ることは決まっていたのですが、協力隊の募集要項に「普通自動車運転免許証を取得または採用までに取得見込みのある人」との記載があり、協力隊が始まる5月までに急いで教習所に通い始めました。
(自分が入るまでは「または採用までに取得見込みのある人」まで記載されておらず、募集要項を変えてしまいました。)
合宿で免許を取得したんですけど、免許合宿には全国から受講生が集まっていて。
地元ではなかなか出会えない人たちと交流できたり、免許取得の記念写真を撮ったりと、新しい発見の多い日々でした。

そんな中で、忘れられない出来事がありました。教習所でお世話になった教官さんと阿久根市街を路上教習中、ポツリとこう言われたんです。
「阿久根に住むんなら、車ないと困るやろ。ちょうど乗り換え時期やし、これあげるよ」と、車を譲ってくださったんです。しかも「俺は人を悲しませる嘘はつかない。本当だ。好きに使っていいから」と、優しく背中を押してくださって。

“なぜ車を頂けたんだろう..?”
ぼくにとって、なんとも不思議な出来事でした。阿久根に来て間もない頃に頂いた優しさとご縁に、阿久根の暮らしの魅力をとても感じた出来事でした。
今ではその車で阿久根の海沿いを走ったり、山にドライブに出かけたり。
町のあちこちを自分のペースで楽しめるようになって、暮らしの幅がぐんと広がりました。

阿久根市地域おこし協力隊に着任
2024年5月に阿久根市地域おこし協力隊に着任。主なミッションは空き家対策&移住定住促進。
オンラインで大学の単位を取りながら、地域おこし協力隊としての阿久根での生活が始まる。

大学の単位を取りながら協力隊活動がスタートしたので、「何もかも中途半端な人が来た」と思われていたかもしれないです。
それでも、見守ってくれる方、手を貸してくれる方、励ましてくれる方がいました。
感謝です。
無事、2024年9月に大学も卒業できました!
地域おこし協力隊としての活動
縁が輪市(えんがわいち)

元々は空き家の相談を頂いたのがきっかけで、空き家の中にある家財の処分をするためにイベントを企画しました。
みんなの縁を繋げるという意味でその名も「縁が輪市(えんがわいち)」。



当日は大盛況で家財がかなり減り、後に阿久根市の空き家バンクに登録されることに。
しかもその後無事に売却され、現在では新しい人が利用しています。
空き家の窓

阿久根の広報誌で毎月「空き家の窓」という連載を書かせてもらってます。
空き家をリノベーションした場所や、リノベーションして移り住んだ方々を取材して記事にしています。


「空き家の窓」のロゴは僕自身でデザインさせていただきました。
こういったデザインにも関わらせていただく機会をもらえて感謝です。
阿久根での生活


息をのむような阿久根の夕日。
こんな夕日は阿久根に来るまで見たことがありませんでした。


阿久根はゴキブリよりカニが多い町らしいです。
押入れを久しぶりに開けたら、カピカピのカニが出てきたりするらしいです。笑(阿久根市民より)


阿久根の雪景色は、故郷の長野よりカラフルでした。
長野で雪が降る季節は木々の葉が落ちて色が無く銀世界なので、緑がある中に広がる雪景色は新鮮で。


地域おこし協力隊の仲間と一緒に阿久根の夏祭りである「みどこい祭り」への参加。
地元のお祭りに自分たちも参加することで、初めてちゃんと阿久根市民になれたような、そんな気持ちになった1日でした。


大学時代の恩師である上平教授が阿久根に遊びにきた際、阿久根市にある素材を使ってクラフトジンを地域の方々と制作しました。
そろそろ出来上がる予定で、2025年6月には試飲会を予定しています。


下園薩男商店三代目社長の下園正博さんに誘われて始めたポーカー。
無一文で阿久根にやってきた僕ですが、下園さんからは「齊藤くんのポーカーのプレイスタイルをみて、心配がなくなった」と言われました。笑


そこからポーカー大会を主催したりもしています。
しおしーデザイン

デザインを始めたのは大学時代です。
プログラミングの授業でウェブサイトを制作した際、フリー素材が不足していたことから自分でイラストを描き始めたことがきっかけでした。
最初は、地元の軽井沢にある歴史的建造物である旧三笠ホテルをイラストトレースすることから始め、ポケモンのイラストを描いたり、ネット友達のためにネームプレートや似顔絵を作成したりしていました。

※イラストトレース:既存の写真などを下敷きにして、上から線をなぞって写し取る技術のこと

阿久根には、自分が来た時に阿久根の過去の歴史がわかるものが少なくて。
「次に来る人に同じ思いをしてほしくない。自分にできるデザインで大好きになった阿久根市の歴史を残す」との想いから「しおしーデザイン」という名前でデザインの活動も始めました。

これから

これまでの私を支えてくれた人たちへ。
そして、これから先も、もしどこかでつまづいた時に、そっと手を差し伸べてくれるかもしれない多くの人たちへ。
心からの感謝を伝えたいと思っています。
けれど、「そんなつもりで助けたわけじゃないよ」と、皆さんはいつも笑って言ってくれます。
それでも私は、やっぱりありがとうの気持ちを伝えたくて仕方がありません。
だからこそ今は、阿久根でのびのびと暮らし、いろんなことに挑戦して、楽しんでいる姿を見せることが、 私にできる一番の恩返しなのではないかと思っています。
これからも、阿久根で新しい一歩を踏み出しながら、 私なりのかたちで、阿久根の生活を謳歌していきたいと思います。
これからもしおしーをよろしくお願いします!
まとめ
無一文でたどり着いた阿久根で「楽しむことが恩返し」
何も持たずに飛び込んだ場所で、人に出会って、自分の居場所ができる。
しおしーの言葉と笑顔には、阿久根というまちの持つ“人の力”がにじみ出ていました。
しおしーの穏やかな表情や優しい言葉使い、相手の話をまっすぐに聞く姿は、丁寧に相手と関わることの大切さを思い出させてくれます。
この丁寧さが周りの人たちがしおしーに惹きつけられる一番の理由だと感じました。


阿久根でのびのびと暮らし、いろんなことに挑戦して、楽しんでいる姿を見せることが、 私にできる一番の恩返しなのではないかと思っています。
そう、その通り!
そのままのしおしーで協力隊2年目の阿久根暮らしもたくさん楽しんで!
そう心から感じた、今回の活動報告会でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
また次回、お会いしましょう!
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